Laundry Land

いよいよ就活生。

ヒグチアイがいるから大丈夫な気がする

大学に入って新しい習慣ができた。
キャンパスノートにカバーをかけたものを持ち歩いている。
1日見開き1ページ、1冊3ヶ月計算で好きなことを書けるように設定してある。手帳や日記のように、予定や出来事を整理するということではなく、思ったこと、考えたこと、引っかかったこと、ざっくりしたアイデア、、バッと書きつける用のノートだ。
「忘れるために書いておけ」
という親父の言葉に妙に納得して真似し始めた。書いておけば、そこに戻ってきた時に思い出せる。

何かに結び付くかもしれない些細なことほど、忘れる。
そして細々したことをため込んでおくと、疲れる。
単調で特別なことが起こらない毎日だからとこのノートを放置していると、気付いた時には頭の中が色々なことで溢れてもやもやしている。
戻ってこれるリアリティーは大事だと思って続けてきた。


ノートがもう5冊目になる。
大学に入って2回目の春、毎日毎日が事細かに残っているわけではないけど、過去の4冊をざっと見てみて、不安に思う。
大学に入って何か変われたのか。
友達が増えた、居場所ができた、どこへ遊びに行った、何かに感動した、腹が立った。
新鮮味や、感情の起伏はどこか不安定に感じて、自分自身が何か変化したか分からない。
それを証明してくれるものなんて外にはないからなおさら。

甘酸っぱい薔薇の大学生活は何処へ。去年の新歓期の終電で、こみ上げてくるただ酸っぱいものと一緒に飲み込んでしまったのか。
自分の中のジメッとしたものを吐き出すことだけに一生懸命だった浪人時代に比べて、そこそこ色のある毎日を、阿呆みたいに暮らしている。

大概の人間がそうだと思う。人はそんなに変われない。





ヒグチアイを紹介したい。
長野県出身、鍵盤を弾くシンガーソングライター、インディーズ活動を含めて9年目の28歳。
去年、「160度」でメジャーデビューした。

このジャンルが好きな人は名前を聞いたことがあるだろう。
全国でライブを行い、各地に根強いファンが多い。対バンするアーティストの中にもファンと公言する人が多い印象で、「ヒグチアイ最強スリーピース(Ba.山崎英明(ex.School food punishment)、Dr.刄田綴色東京事変))」という分かりやすく最強なスリーピースでのライブも行ってきた。
インディーズでの活動歴の方が当然長いが、いつか売れるとずっと言われ続けてきた人だ。




この人の歌は、何かを思い出させる。聴き手それぞれの、あの時の言葉、景色、匂い、想い、決断。そしてきっと、何故か、背中を押された気になる。無理な応援歌ではなく、足りない自分、変われないままの自分を肯定できる、寛容に近いものだと思う。


落ち着いたアルトがかった声が歌う曲の魅力は「共感」というより「共有」できるリアリティーだ。そしてその歌詞には、聴き手がそのリアリティーを自分の1番納得のできるところに収める余白がある。
自分はどうだっけ、そういえばあんな瞬間があったな、と思えるような。

本人もインタビューでこう答えている。
「今日食べたトンカツがめっちゃ美味しかったのは、トンカツが美味しかったからだけではなくて、今日すごく晴れていたから、好きな人と一緒だったから、嫌なことがあった1日の最後に美味しいものを食べたから、、いろんなドラマがあったことに気づく」( http://realsound.jp/2016/11/post-10248_entry.html )

感情や価値観をその人の個性としてついつい注目してしまうが、人間の生活にある背景、余白そのものにこそ意味があると自分も思う。

ぽたり

ぽたり

  • ヒグチアイ
  • J-Pop
  • ¥250



「ぽたり」
さびついた涙腺が もうすぐで壊れそう
曖昧な朝焼けと 身代わりのくもり空

やりたくて やれなくて やらなくて やりきれなくて

あきらめて 忘れては その時をもてあそぶ
靴の底はすりへったまま 雨が降ると走れないまま
タバコ屋の屋根の下で ずっとずっと雨宿り

食って寝て泣いて 腹減って また食って
まわって また同じところに戻って
繰り返し 繰り返し 失敗も後悔も
もう飽きたんだ だから ぼくは負けない

一番の友達は 裏側の自分だから
いつまでも勝てなくて 時々は辛くなる

食って寝て泣いて 腹減って また食って
今日も また同じところに戻って
迷った道で 拾った何かをポケットにつめて

食って寝て泣いて 腹減って また食って
まわって また同じところに戻って
繰り返し 繰り返し 変わらない毎日を
送ってるはずなのに 君はずいぶん変わった
やぶれそうなポケット ほらもう 泣けるはず




人の目を通した景色、匂い、温度を感じる歌詞だから、聴き手も自身の体験を引っ張り出して、自分のドラマを差し込める。自分のことを考えて、自分を肯定してやれる。




もう一点。
こういった表現は本当によく見るし、特筆するにしても、音楽にとってはそもそも当たり前な話なのだけど。

ヒグチアイはライブの人だ。
ライブが何倍もいい。

慣れていない環境、慣れていないモノが与える印象は強烈で、新鮮味が感情の動きを何割増しかにすると思う。だから、ライブハウスで見る生の演奏は、音源より魅力が多いと思えるのは当然な話だ。

ただ、ヒグチアイに関しては少し違う。
(どう違うかは、今すぐこのブラウザを閉じてライブの予約をしてもらうと一番感じてもらえるのだけども。)

うたも、演奏も、声も、それぞれ魅力的なのはそうだ。
ただ、彼女のライブは、ただ歌を見た、聴いたという印象よりも、ヒグチアイを見た。という感覚になる。彼女自身を見た、聴いた、知った、気になる。
ヒグチアイについて。が曲に込められているからかもしれない。

彼女の一番のウリは絶対にライブハウスに行かないと分からない。

このことを文章で伝えたいと何回も挑戦したけど、とにかく無理だった。
ここで無理にグダグダするより、興味を持った人には是非、ライブに行ってみてほしい。



最後に。どこにもアップされていない曲なので歌詞だけ。

「日常」
くたびれた商店街で
切れそうな歯磨き粉を買う
ランドセル背負った子供が
走ってく 長い長い一本道を
夕焼けが空を染めてく
鳴いている 黒やぶち 野良猫
変わらない今日が過ぎてく
変われない 僕は今日も変われない
そのままの君が好きだ と
言ったあの子は随分前に去った
あの頃のままの僕を見て
同じ言葉をかけてくれるだろうか
一番星見つけるたびに
明日に希望を託す
変わらない今日が終わってく
変われない 僕は今日も変われない







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自分にとってヒグチアイは特別なアーティストになっていることを踏まえて。

ヒグチアイがメジャーデビューした。

2014年2月、「三十万人」リリースを控えている時に、活動を始めてから初めて、辞めたいと思うことがあったという。

プロフィール欄にずっと「自分のうたを自分の声でうたっている人」と書くくらいの人だ。
やりたいことをやる、自分が楽しむ、続ける。
それを追求した9年がヒグチアイの強さだ。
キャッチーなメロディー、ハイトーンボイス、注目されるキャラ設定、カワイイだけの容姿。女性SSWがライブシーンからメジャーに引き上げられるための近道はたくさんあるが、それらに妥協せず、自分を掘り下げ、人を考え、言葉を歌にして、曲を書き、ライブを続けたんじゃないだろうか。

そしてようやく、メジャーシーンに躍り出た。間違いじゃなかった。

自分のやりたいこと、やりたくないこと、できること、できないこと、好きなこと、嫌いなこと、そう単純じゃないものに向き合い続けた結論も歌にしている。

過去との決別でも未来への迎合でもなく、今のヒグチアイが今の全てだ。
また少しずつ前に進む。

ヒグチアイのライブを初めて見たのが高校一年生のとき。それから今まで、一番ライブを見たアーティストかもしれない。持っているCDはデモも含めたら10枚を超えた。
この人ほど、励まされて、慰められて、背中を押されて、何より楽しませてくれたアーティストはいない。歌い続けて欲しい。
辞めないでくれて本当によかった。



今の音楽シーンに、ヒグチアイが新しくデビューする。この心強さは、忘れようがない。