Laundry Land

いよいよ就活生。

エモ・バケツ・チャレンジ

東京に帰ってきたら暑くなってますがどうしたんでしょうか。
気づいたら中間試験も終わっていました。

なんて。
僕のセリフを、習ったばかりの文法を使った拙い日本語で彼は言った。フランスから来た彼は学生寮に近いローソンで働いている。湿ったこの国の夜のコンビニエンスストア、電飾におびき寄せられるのは虫だけではない。ストローをつけなかったからと怒鳴り込んで来るおっさんや、コーヒーマシンの使い方を偉そうに聞いてくる婆さんの相手を、深夜2時に強いられる彼の指は長く美しかった。
僕はその話を聞いてから、タバコを買うときは番号を伝えるようにしている。わざわざ留学や就職先として日本を選んでくれた人たちの限られたボキャブラリーを、マルメンアメスピ、セッターなんかで埋めたくはなかったのだが、よく考えてみれば彼もどうしようもない喫煙者だった。彼の吐いた煙が、空に届いていくのを眺めた。


春の陽射しが夏の陽刺しに変わる頃の話。
下北沢サウンドクルージングというお祭りを知っていますね。十何箇所で100組近くの演者が何かしらの音楽を鳴らし、それを見に集まった人々はせっかくの気持ちのいい天気に背を向けて地下への階段を降りる奇祭。
下北沢というアイコンは観光地にするに十分で、それが本来の価値なのかは定かではない奇妙な色と熱を漂わせる半強制的な一日。
太陽と月が二回入れ替わるまでバイトして手にした2万円と少しを、その次の週には長野で使い果たした。
TAICOCLUB' 18。
とにかく最高だった。
セピアにならないけどエディットもしない。そんな写真をたくさん撮った。山の向こうに夏休みの雲が見えた。

かき氷を食べよう。
谷中のひみつ堂。
夕焼けだんだん。
日暮里から向かう谷中銀座の入り口にあるその緩やかな階段を知っていますか。
傾斜15°幅4.4m長さ15mの36段
綺麗に夕焼けが見えるからその名前なのか。猫が集まるから別名・夕焼けにゃんにゃんとも言われているらしい。
85年にスタートした同名の伝説的番組はもともと夕暮れにゃんにゃんだったが、当時は夕暮れ族があったせいで、、まあそれはいい。
素敵な名前だ。
夕焼けだんだん

坂道と電線
の神様は猫だった
月から降るはしご
生温い風
夕暮れの崩れる音

坂道と電線

坂道と電線

あの日、僕はずぶ濡れだった。
マンションの向こうに赤い空が見えて
すれ違ったランドセルも光っていた。
髪の先からポタポタ落ちるそれを不思議そうに眺める外国人店員から受け取ったタバコを咥えて、夜になるのを待った。

バケツいっぱいのエモをぶっかけられて風邪を引きそうだった。

エモ。
いとあはれ?
花鳥風月、か。

歳を重ねるごとに順番に感動していくと言われる4つ。
花は踏みつけ、鳥には石を投げて行きたい、そんなもので満足されてしまったら商売あがったりやからな。
そう答えたのは還暦過ぎたお笑い怪獣だけど、そんな強さはない。

要は儚さだ。
花は散り、鳥は去り、風も止み、月も陰る。

初めての運動会はその日が永遠に感じた。
三年目の大学生活があっという間に終わることを今は知っている。
簡単に時間が過ぎていくこと、大切な選択を無表情で行なっていること、失ったこと諦めたこと。

もうどうしようもないことがあったから、今を感じるんだろう、でもまだ十分に未来はある。このバランス。
目まぐるしい世界に夢中の間はいい。後ろを振り向いた時。ここから始まる。

頭上にバケツがセットされる。

あとは
適当に風が吹くだけで
湿ったアスファルトを嗅ぐだけで
グラスの氷が溶けるだけで
ぼんやりと夜が来るだけで
ページをめくるだけで
缶ビールのフタを開けるだけで
イヤホンを耳に入れるだけで

ザバン、と。

氷水はアメリカのスポーツ界では祝福を意味するらしい。
これを読んだあなたは「祝祭」を聴いて下さい。

アーケード

アーケード

  • カネコアヤノ
  • J-Pop
  • ¥250

そう、これはエモ・バケツ・チャレンジ。
頭から被ってください。風邪だけはひかないように。この風邪はぶり返しやすい。

 

駅前で、全身が濡れた気持ちの悪い男とすれ違った。靴までグッショリ濡れているように見えたけど、周りでそれに気づいていたような人は見当たらなかった。
商店街をくぐり抜けた先の、錆びついた階段を上りながら不細工なキャラクターのついた鍵を取り出す。元カレから貰ったこのキーホルダーをいつも捨て忘れる。玄関を開けると、締めっぱなしのカーテンから漏れた光の線が揺れていて、締め忘れた蛇口から水滴の落ちる音がした。カーテンを開けて蛇口を締め、狭い部屋のデカいベッドにぼんやり腰掛けて気づいたら夕方。課題のためにパソコンを開いても結局Netflixで夜が終わる。
眠い目をこすり朝とすれ違いながら家を出て、大学に向かう途中のローソンでパンを買う。
お釣りを渡してくれた外国人店員の指が、今日も長く美しかった。


昨日は月が綺麗でしたね。
あなたの国の言葉ではなんて言うんですか。