Laundry Land

いよいよ就活生。

神田松之丞 問わず語りの松之丞

耳が早い人たちの間でその番組が囁かれるようになってしばらく。
「神田松之丞 問わず語りの松之丞」がとにかく面白い。
"講談師の神田松之丞" ってもう色々雑誌テレビに出てるし、佐久間Pとかヒコさんとか、そういうサブカル界隈でもバズりまくっている。

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「ラジオの友は真の友」と締めくくる前口上から始まる30分の1人喋り。
独壇場、独演会、落語の枕的な喋りとでも形容できるのかしら。こんなことが起こった、こんな人と出会った、こんな仕事をしたということを、俺がいかにすごいか、を差し込みながら愚痴る。
「講談をもっと知ってもらう」という使命だけを持った、本人曰く"竹槍戦法" は、容赦なく先輩、タレント、業界全体まで清々しくイジっていく。久し振りに辟易しない毒舌芸と出会った。
芸能人を呼び捨てにするのも聞いている側は嬉しい。そもそも、芸歴・上下関係・事務所なんかの "暗黙の業界ルール" は本来リスナーには無縁なのだ。"非素人" の都合でその関係性に付き合い続ける我々素人も少しお人好しな気がする。
ラジオから聞こえてくる声が古舘伊知郎を呼び捨てにする感じは、前口上の「ラジオの友は真の友」通りで、行けっ!松之丞!という外側にいるリスナーからの期待も乗っかっているのかもしれない。

講釈師の喋りが上手い、なんて言うのは何様だって話だけど、ラジオパーソナリティとして聴き比べてみると、やっぱり上手い。
演じ分けながら一人で物語を進めるのが本業の芸人が、ラジオ尺でフリートークをすると30分なんてあっという間に過ぎる。
声色を使い分けるところ、敬語から乱暴な言葉遣いに変わっていくところ、語尾や間まですべて。とにかく聴きやすい。
気にくわないところは何度でも取り直す録音のスタイルも大きな要因かもしれないが、それでも。どれだけふざけても、滑らかで上品に聞こえる声。やっぱりこの人は、耳馴染みのある芸人とは違う畑の芸人なんだと思う。

芸歴10年以上、35歳になる芸人のスキルがすごい。なんて言うまでもないことでしょうが。
こんな当たり前のことを、顔ぶれの変わらない最近のテレビは忘れさせてくれるから、とても新鮮に感じてしまう。(パンサー尾形が40歳と言えば伝わるか。)(余談だが、オードリーのannは最近若林がこう言う部分で葛藤している感じが面白い。)


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一人語りと言うが、笑い屋シゲフジという男が録音ブースに入っている。誘い笑いというやつで、普通は構成作家がこの役割を担うけど、彼は毎回冒頭に紹介される"笑い屋"である。
伝統芸能に関係する人間の一人語り×笑い屋」
この構成といえば、そう。TBSの王様、伊集院光が出てくる。
「問わず語りの松之丞」は「深夜の馬鹿力」を連想させる何かがある。

例えば。

「(雑誌の取材を受けたとき) 1人が取材の方でさ、年齢は、、50くらいの人かな。あーよろしくお願いしますなんて言ってさ、結構小太りの方で。なんだろ、いかにもなんかこう、風俗の常連みたいな顔してる笑。あのー笑、風俗嬢初めてやるときに、とりあえずこの常連のお客さんの意見聞いてから、君が向いてるかどうか決めようみたいな笑。店長が決める時の常連みたいな感じですよ。。。今日はね、母の日らしいよ笑」


これ、どっちのトークだと思いますか?

松之丞なんですけど。どこか被って聞こえませんか。なんでしょう、この感じ。一人喋りの型としてはよくあるパターンだよ、と言われてしまうとそれまでだけど、散々突き進んでパッと逃す感じ("〜やってんだから。いややってねえよ!!" 的なやつ)とか、知ってるやり方が多い。

伊集院は落語から足を洗ってラジオに絞った人だが、度々落語の話は出てくる。元々の師匠、三遊亭円楽の不倫がバレた週の放送は嬉々として聴いた。
("師匠への義理立てがあるからラジオで喋る前に一度直接挨拶に行こう。手土産は何がいいか。プリンなんかどうか、いや、プリン?ダメだ!不倫をいじってると思われる!"
という土産探し珍道中)
昼のラジオに円楽が出演したこともあった。伊集院光は未だに、落語との関係が直接的なもののように感じる。

伊集院のラジオを聴いてきたと松之丞は公言している。影響やリスペクトもあるみたいだ。
元落語家・現ラジオスター伊集院光と、現講談師・新星ラジオパーソナリティ神田松之丞。
そんな二人の直接対決が、今年の7月に「伊集院光とラジオと」であった。
「俺のこと、どう思ってます?」
15も年の離れた二人だが、お互い気になることはこの一点に尽きたように思う。リスナーの焦点もここだ。
「落語をやるためには高校を中退しないと行けない、ラジオをやるためには落語を辞めなければいけない。それが過去の自分の言い訳だったんだと今ならわかります。」と伊集院。自分が履けなかった二足のわらじで闊歩する講談師に対して何を思ったのか。
しかも、伊集院光は「(腐りかけの今が面白い、と明言した上で)深夜の生放送は近いうちに店仕舞いします」と事実上の引退宣言までした。これを引っ張り出した松之丞は、お墨付きをもらったといっていいんじゃないか。
お互いに腹を探り合ってるうちに終わる対談だったが、ラジオファンとして鮮烈に面白かった。


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絶賛。
今の神田松之丞に対する評価はこれで間違いない。
ENGEIグランドスラムダウンタウンなう報道ステーションなど、今年だけで数多の有名番組に出演。講談を紹介する仕事をしっかりこなした上に、竹槍戦法の毒舌サービスまで振りまいた。
"日本一チケットの取れない講談師"という前振りで出演したよくわからねえ奴が、キャラクターも面白い。そんなの注目されるに決まっている。
伊集院の他にも、爆笑問題笑福亭鶴瓶高須光聖。業界の有力者のラジオに出演しては、絶賛。
その時の様子を赤裸々にラジオで話せばリスナーも大喜び。
同じTBSラジオ爆笑問題高田文夫やジェーンスーも華麗にいじってみせる。

出れば出るほど、"自分の本業はあくまで講談だから、この華やかな業界で干されることになっても別に構わない" というスタンスが魅力的に映る。
今のテレビは自分の役割(本業)を譲らない人が少ない。役者もミュージシャンも平気でアポなしグルメロケに行く。
色物ばかりのエンタメ界に、正真正銘黒文字の芸人が現れた。
殺到しているであろうテレビのオファーに、今後どれくらいの匙加減で出演していくのか。
そして、講談師としては未だ二つ目。講談師とラジオパーソナリティを天秤にかけ始める時期もいずれ来るかもしれない。それでも、真打になった松之丞はまだ40前半。その時の伊集院光が何をしているのか、その時のテレビはどうなっているのか。松之丞の目線で見る色物の世界が楽しみで仕方ない。

 

(このインタビューは面白い。有吉のことをそう見ているということ、をちゃんと話してくれる人がなかなかいない。)


しかしなあ、菊地成孔といい神田松之丞といい。
トナミD、すげえなあ。

 

 

 

 

 

 

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余談。

俺も、話題になり始めたあたりから面白いっていうのはなんとなく知ってたんだけど、いまいち聴く気にならなかったのは訳があって。

このラジオを最初に勧めてきたのは親父で。去年の8月だから、たまたまタクシーかなんかで聞いたんでしょう、始まって間もない頃でした。その日は俺の誕生日だからって家族で丸の内まで出かけて、滅多にない機会だからって高そうな店でステーキ食って、ワイン頼んでいい調子で。お前が生まれたときは、とかそんな話まで出てくるような席でいきなり親父が「神田松之丞ってやつのラジオが面白ぇんだよ」つって。「あいつが鰻屋に行った時の話が面白くて」って。だいぶ酔ってたんだろうけど、知らねえラジオパーソナリティーの知らねえエピソードをそのまま喋り始めてさあ。テーブルの方では、母さんが誕生日だって伝えてくれてたんだろうなあ、チョコレートサンデーに花火刺さったやつが運ばれてきて、店員が今にもハッピーバースデーって歌い出しそうな感じで待機してんだよ。頼むからやめてくれっていう俺と、見たいからやってもらってって母の目線がサンデーの花火の辺りでバチバチしてるなかさ、
「結局鰻が2時間半来なくて」ってお前いつまで喋ってんだよ!

という出会い。はい。
鰻屋の話、改めて聞いたらオチもクソもなかった。

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