タラタラタラタラ
『A子さんの恋人』一巻の1ページ
A子が半紙に向き合うシーンから始まる。
さて、と正座をして筆を取るのだが
タラ、と髪の毛が垂れ。タラ、と筆から墨汁が垂れ。タラ、と半紙を持ち上げた文字からも垂れる。
本筋ではないところの暗喩がとにかく上手い近藤聡乃の技が冒頭から溢れ出ている。
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さて、とエントリーシートの課題と向き合う。髪の毛は切ってある。墨汁じゃなくてキーボードの入力だ。
タラ。
なに?
タラ、タラ。
なんだなんだ?
タラ、タラ、タラ
どこ行った、やる気。。。
(タラタラしてんじゃねーよ)
***
紫の髪に緑のバンダナ。1962年発売だから56歳、甲本ヒロトの一個上。
「お前、音楽で飯食えたんだな。よかったな。自分のやりたいことで食っていけるっていいよな、羨ましいよ。最近の若者は音楽を聴かないから、テレビを見ないから、車も持たないし結婚もしないし、タバコも博打もやらないから。そんな言い訳ばかりが浮かぶのが情けないよ。
でもさ。
あいみょん、分かるか?君はロックなんか聴かない って曲書いてさ、売れてんだよ。今年紅白も出る。あと、スプラトゥーン、知ってるか?お前が端に追いやったイカだよ。今小学生がそいつらに夢中だよ。タラちゃん?ああ、もちろん。まだ日曜にみんな見てる。あいつもまだガキのままさ。
お前も、ガキみたいにキラキラした目でギター抱えて歌ってたよな。変わってないよ。俺なんてほら、濁っちまった。毎日ネクタイ締めてさ、ビクビクしてるよ。
みんなそうさ。何も失ってないのに、何かを取り戻そうとしてる。
デカイ会社に入って、偉くなってして金稼いで、結婚して家建ててガキ作ってさ。そんな当たり前がいつのまにか"当たり"になっちまった。誰もが自分の当たりの可能性にワクワクしてたけどさ、この歳になると嫌でも結果が分かっちまう。当たりかはずれか、答えが出てからも人生っていうのは長いなあ。それなのに。お前はまだ、56歳になっても、人生の"当たり"か"はずれ"かなんて開けてみなきゃわからねえって言うだろう?当たりもはずれも自分次第で、人と比べるもんじゃねえって。その通りだよな、、未来を持ち続けているうちは人って強いよ。
・・・ごめんな。また俺ばかり喋っちまった。
おう、お前も元気にやれよ。
じゃ」
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じゃ。じゃねえよ。
何やんってんだ早くエントリーシート書けよ。
まあ。さて、駄菓子とお湯割で延々と飲む季節がやってきたよ!
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